待ち望んだ瞬間は始まりの瞬間へ
1999年 4月 音楽と人
あの虚無と絶望に満ちた世界とその先にある希望の光を、どんな形で表現してくるのか?周りの期待は
大きく膨らんでいた。
ライヴでバックをつとめるサポートの3人は、どれも名の知れた手だれの精鋭たち。al.ni.coのあのサウンドを
支えるのにはパーフェクトの面々だ。会場を支配していたカートコパーンの曲がだんだんと落ちていく。
フロアのざわめきが大きくなるのがわかる。チケットはハガキによる応募制であったためか、ファンの顔にも
ばらつきが見える。前のバンドの頃から、ずっと2人を見つめてきた人、al.ni.coとして活動が始まってからの
彼らしか知らない人・・・反応も様々だ。
真っ暗なステージに2人がゆっくりと現れる。上杉は白い実験用の白衣とニット帽。
手をかざしてフロアを覗き込む。柴崎は黙々と舞台下手でギターセッティング。うねるフロアを尻目に
落ち着いて見える。
1曲目の「Prologue」は「セイレン」の1曲目だが、インプロヴィゼーションのような楽器隊の
セッションと上杉の叫びで全然別の曲に聴こえた。今までたまりまくった思いをぶつけるように、
全身全霊、ペースも何もないまま、ただただ叫ぶ
<ブエノスノーチェス!>なぜかスペイン語で客席に声をかけたのは「カナリア」の後だ。
そしてそこからは具体的にMCもほとんどなく、1曲1曲に思いをこめて、絞り出すように歌う。
「LUCY~」カヴァーでは、即興っぽい日本語詞をつけて歌っていた。凄いのはやはり上杉の声だ
あのふるえる声はもうそれだけでロックだ。説得力がある。そして、その声に必要なのは柴崎の
ギターであることも、この日のステージを観ていてよくわかった。
ラストの曲が終わり、シドヴィシャスの「マイウェイ」が流れても、なかなかファンは立ち去ろうと
しなかった。アンコールを求める声がいつまでも続いた。完全燃焼、そんな感じのステージ。
ステージ上はやれるだけのことをやり切った。2人の気持ちが伝わってきたような気がした。
しかし、正直に言えば、まだまだ戸惑っているところはあったと思う。
この日ステージに戻ってきた上杉と柴崎を迎えてくれたのは、非常にあたたかいファンからの祝福だった。
この日のフロアからは「お帰りなさい」という愛情があふれていた。
それは当然の反応だろうが、2人が求めていたものは決してそれだけではない。ステージと客席の
反応を観ていて、奇妙な違和感に襲われたのは僕だけではないはずだ。当人たちもわかっているだろう
アルバムをリリースし、ステージにも立ち、戦線には復帰した。今スタート・ラインにたったばかりの
二人だ。あとはこの違和感をどう乗り越えていくのかが、al.ni.coとしてのテーマになっていくと
思う。
al.ni.co
LIVE1999#1
2月17日(水)
渋谷クアトロ
1 Prologue
2 カナリア
3 「G」
4 晴れた終わり
5 Living For Myself
6 RAPE ME(NIRVANA)
7 Lucy IN THE SKY WITH DIAMONDS(THE BEATLES)
8 Suicide Solution
9 Tough Luck
10 Prayer
11 Meaningless Yellow
12 雨音
13 HEY,HEY,MY,MY(NEIL YOUNG)
14 Providence of Nature
15 TOY$!
16 Blindman's Buff
by sinasoba4
| 2015-10-10 06:46
| ai.ni.co雑誌